ってね☆

小学2年生。初夏。給食の時間。
女子達の興味はいつだって、色恋とゴシップ。今日も情報通のおしゃべり女子が、「誰にも言わないから」なんて甘い言葉で男子達に詰め寄ります。
もちろん、こんな嘘っぱちに騙されてはいけません。ひとたび口を割ろうものなら、あなたの淡い恋心は、帰りの会までにクラス中の知るところとなるでしょう。

「Kは誰が好きなの?」

おしゃべり女子の興味があなたへと向きました。さあ、開戦です。


あなたにとって、このゲームを生き残るのは決して難しいことではありません。なぜなら、必勝法を知っていたからです。

「女子の名前を言っていってよ。はいかいいえで答えるから」

決まりました! 必殺のポーカーフェイスが火を吹きます。これで、あなたの勝利は約束され......

「じゃあー、Oさん?」
「え」
「あ、当たり?」

秒殺でした。


同日。下校時刻。
まあ、ほら、人の噂も七十五日と言うし、大丈夫大丈夫。そう自分に言い聞かせます。75日後といえば、もう二学期が始まっている頃でしょうか。8歳の少年にとってはあまりにも遠い未来。家へと向かう足取りも、自然と重くなります。
すると突然、うしろからあなたを呼ぶ声。
振り向くと、20メートルほど遠方に、3人の女子の影が見えます。一人は、仇敵おしゃべり女子。一人は、Oさんと仲良しの地味子さん。そして3人目は...... Oさん。
唐突な絶体絶命のピンチに、あなたの思考は完全に停止します。
小さく口を開くOさん。

「えと、あの。私も! 好き、でした」


その日以降、Oさんとの間にはなんだか気まずい空気が流れます。3年生でクラスが別々になってからは顔を合わせることもなくなり、4年生の終わりに、あなたは転校していきました。2人のエピソードと呼べそうなものは、まるで残っていません。


ただ、ひとつだけ。あれは2年生の冬、雪の降った日のこと。
あの日、放課後に校門前で待ち合わせをして、あなたとOさんは、どうぶつの森の通信をしました。
彼女が残していったマイデザインとメッセージボトルが、今もあなたの村に残っています。仮想空間上のデータだけが、彼女に関する記憶にリアリティを与えます。
そしてあなたにとって、これ以上の現実感など余計なものでした。思い出という薄膜を通さなければ、あなたは過去の自分さえ直視できないのですから。


これがホントのすれ違い通信、ってね。

 

 

 

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劇団綺畸2017年度新人公演
『虚像を抱いて死ね』
作・演出 黒橋拓
3/17(土) 19:00
3/18(日) 14:00/19:00


於 駒場小空間
全席自由席
入場無料・カンパ制
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